【特集:新入生向け練習メニュー】身体の癖を修正する 

公開:2022/03/25

更新:2022/04/29

新入生に対する特別な練習メニューのアンケート回答をいただいた中から、新潟市立赤塚中学校男子バスケットボール部で外部コーチを務めている大竹司さんにインタビューしました。ミニバス経験のない初心者も数多く入部してくる同チームでは、「身体の癖の修正」を大きなテーマとして、身体の正しい使い方を学ぶエクササイズを取り入れています。


大竹司さん。オンラインインタビューの後、下記の写真や動画を多数ご提供いただきました。

ナンバープレーで誤魔化すのではなく、個の強化に向き合う

まずは、大竹さんが指導しているチームのバックグラウンドと、「身体の癖の修正」に着目するようになった経緯をお話しいただきました。

「ミニバス経験なしで、中学校から始める子がほとんどです。運動能力も高いわけではなく、むしろ音痴の子もいます。他の学校はミニバスで基礎を学んできますが、赤塚中学校はそうではありません。ミニバスで上手だった子たちは、中学校でもどんどん伸びていくので、その子たちと同じスピードで成長しても追いつけません。その子たちよりも2倍も3倍も早く成長しないと追い越せません」

「能力がないので、オフェンスはナンバープレーの練習に時間を割いていました。ある程度戦えるようにはなりますが、アジャストされると結局は個の部分で差が出ることを痛感し、ナンバープレーで誤魔化すのではなく、『能力が低い』という部分にきちんと向き合って、まずは身体の使い方というところから改善していくことが、子供たちの将来のためになるのではないか?そう考えるようになりました。

また、プレーの動きの速さを要求するより、まずは正確さを追求し、優先しなければ技術は身につきません。ゆっくり正確にプレーさせるためには時間がかかりますが、それが結局、選手やチームの成長に大きな影響を与えるのではないか? そんな風に気付きました」

大竹さんは理学療法士が公開しているブログなどを参考に、様々な情報収集を行った。そして、現時点の身体能力をチェックし、劣る場合にはそれを改善していくためのエクササイズメニューを組み立てた。以下がその概要だ。

四股

この四股の姿勢を獲得できていない身体の状況で、ディフェンスフットワークやディフェンス動作を反復しても、怪我やパフォーマンスの低下を招くことに繋がると考えている。骨盤を立てるためにも取り入れている。

図1 四股:良い例
四股:悪い例

▼チェックポイント

・背中は真っ直ぐ(姿勢が悪く、背中が丸まったり頭が落ちたりするのを修正したい)

・足首は外に向ける(股関節を開かせる、可動域の修正)

・指先が床に触れる(触れない子がいる、床を触ると姿勢が崩れる子もいる)

椅子は補助として使用し、椅子を抜いても姿勢をキープできるように。できるようになってきたら、側転四股にシフトしていく。

【動画】側転四股:このような感じで行うが、手をもう少し遠くに置けることが理想。どうしても怖がって近くに手を置いてしまうが、そうすると逆に上手くできない。また、もっと力強く四股を踏めるとよい。

肩入れ 

バスケットボールの動きの中で、視線はディフェンスに向けたまま、背骨・骨盤・股関節を使って身体を捻れることが理想的だと考えている。ディフェンスステップの局面を意識した想定をするなら、視線を正面に向けた肩入れはオススメ。

図3 肩入れ
図4 肩入れ:左右差
図5 肩入れ:悪い例

▼チェックポイント

・肩と肩が縦一直線にきている

・頭部が中央、視線は正面を向く(つい外を向いてしまう)

・つま先は外側に向ける

ハンズアップスクワット

ハンズアップ時、身体の軸が崩れる子が多い。そのため、ハンズアップができる身体の基礎が備わっているかをチェックする必要がある。

図6 ハンズアップスクワット:良い例
図7 ハンズアップスクワット:悪い例

【動画】ハンズアップスクワット:回数が多くなり疲れてくると姿勢が崩れやすい。強く意識を持って取り組み、疲れてきた時こそキープできるようにしていく。

▼チェックポイント

・つま先を正面に向ける(膝が内側に入らないようにも注意)

・ももは床と並行にする

・骨盤を立てる(この感覚をきちんと身に着けさせる)

・背中を伸ばして視線は前へ(背中が丸まり視線が下がる子が多い)

▼ハンズアップスクワットに必要な要素

・肩甲骨や肩関節の柔軟性(可動域が狭かったり、使い方が分からなかったり)

・背中を反らす柔軟性(猫背の子が多い)

・股関節を曲げる柔軟性(パフォーマンスが劇的に変わる、怪我もしにくくなる)

・足首を反らす柔軟性(可動域の改善、パフォーマンス向上、怪我予防)

※初めはタオル等の方がやりやすい。ストレッチポールや丸めたマットになると、少し難易度が上がる。

背中反らし

腰痛を抱えやすい選手も背中が硬いことで、腰に負担が集中することが非常に多いと感じる(背中が固いと腰に負担がかかる)。多くの子が背中周りは固いと思われる。時間はかかるが、じっくりと改善していくことが結局は子供たちの将来のためになる。

図8 背中反らし

【動画】背中反らし:A おおむねこのような感じで。この子も身体の癖があるが、背中が柔らかく身体の使い方を自分なりに工夫していると感じる。

図9 背中反らし:硬い例

【動画】背中反らし:B 一見キレイに見えるが、身体の硬さが伝わってくる(実際、痛い・キツイと言っていた)。

▼チェックポイント

・視線は天井へ向ける

・骨盤の真上に肘が向く

・肘を上げたり下げたりを繰り返す

・反らし過ぎても腰に負担がかかるので無理はしない

▼背中反らしに必要な要素

・肩甲骨や肩関節の柔軟性(可動域が狭かったり、使い方が分からなかったり)

・背中を反らす柔軟性(腰痛予防)

・脇腹の柔軟性

タテ開脚

バスケットボール選手にとって、股関節周囲の柔軟性は本当に重要だと感じている。左右どちらも行えることを目指します(左右差が発生する、それが身体の癖)。特にパワーポジションが取れない選手は股関節周囲の動きが硬いことも多い。その他にも腰痛予防や、ドライブのキレを求める選手にもオススメ。これは本当に効果を実感でき、いろんなチームが取り入れているのにも納得している。

図10 タテ開脚
図11 タテ開脚:左右差

▼チェックポイント

・踵と同じラインに両肘を床につける

・背中を真っ直ぐ伸ばす

・立てた膝よりも頭や背中を低くする

大腿四頭筋

前項のタテ開脚では股関節周囲の柔軟性の中でも、後ろ足では腸腰筋の柔軟性が中心となっているが、大腿四頭筋の要素が少ないため、このチェックを追加すると、バランス良く前面の筋肉の要素をチェックできる。実際に行ってみると意外に難しい選手が多い。オスグッドなどの成長痛を有する選手は硬い傾向にある。硬いと痛いので、無理はさせずじっくりと改善していくようにする。

図12 大腿四頭筋

▼チェックポイント

・前脚は股関節と膝関節が90度になるように保つ

・前脚の膝を固定して頭から膝を真っ直ぐにする

・後ろの足を持ち、踵がお尻につく

・頭から膝を真っ直ぐに

毎日1%(約15分)の努力を続ける

これらのエクササイズを行う際に大竹さんが意識しているポイントを挙げていただいた。

「まずは正しい姿勢・やり方を教える、見せる。こうすると良くなる等、ポイントを教え込みます。その後ペアでやらせます。相手の姿勢がキレイであれば、自分もその良いイメージを持って取り組める。姿勢がキレイか、ここをこうしたらいいのではないか?の判断は、いかに自分が理解しているか、そのあたりの理解を子供たちだけで深めさせるようにしています。

これらは家でも学校の休み時間でもできます。長年の癖は一朝一夕で直るものではないので、毎日1%(約15分)の努力(1年後に37倍になる!)で修正していこう、と伝えています」

「子供たちへの指導、コーチングは大人の自己満足、自己表現の場ではありません。『今勝つこと』、『今できないこと』にフォーカスして躍起になるのではなく、子供たちが成長して活躍する将来の姿をコーチが思い描き、そこに導いていくことが大事だと考えています。
コーチは有能な選手に依存するのではなく、子供たちの持っている潜在的な能力を引き出し、高める努力が必要です。強豪校の戦術や方法論を真似してもバスケットの面白さが伝わらなければ、自分の成長を感じることができなければ、子供たちはバスケットから離れていきます。
そのために、新入生にはその土台となるこれらの動き、そして考え方にまずは触れてもらいます」


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