公開:2023/01/13
更新:2023/01/19
JLCオンデマンド新作紹介
JLCオンデマンド・バスケットボールコースの最新コンテンツを紹介するコーナー。今回は、恩塚 亨氏の「”効果的な方法を知る”原則を生かす」の前編です。。バスケットの原則を知らない選手はいつも不安で、その場しのぎのプレーになってしまいます。「バスケットとはどんな競技か?」「このシーンではこうする」という原則を、具体的なシチュエーションを示しながら解説しています。
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バスケットボールの原則を知る
前回公開したコンテンツの最後で、怒られるからやる、のではなく、選手が自ら熱い気持ちで、最高のエネルギーを発揮できる3つの条件を挙げました。
・ワクワクする夢を心に抱いた時
・効果的な方法を理解している時
・自分ならできると信じている時
今回の講義では、このうちの2番目、「効果的な方法を理解する」という要素に焦点を当てます。選手が効果的な方法を理解する大前提として、原則を知ることが重要です。
原則を理解していない状態で、コーチから指示された動きを断片的に行う場合は、「その場しのぎ」になってしまい、選手自身はいつも不安な状態でプレーすることになります。このような光景をコート上でよく見かけます。
限られた資源で戦う戦略を立てる
しかし、効果的にやるべき項目は無限にあります。ドリブル、パス、シュート、あるいは戦術面の動き等々。すべてを行うことは、物理的に不可能です。だから、今必要な項目を選ばなければならない。何を軸にしてチームを指導していくのか。それが戦略です。この戦略の立て方が、コーチングの成否に大きく影響します。戦略は「戦いを略(はぶ)く」と読むこともできます。つまり、無用の戦いをしない。絶好の機会を使って勝負するということです。
経営学の本を読んで学んだ内容で、とても面白かったのですが、資源はいつも足りない、だからこそ不要な戦いはしない。足りない資源としてよく挙げられるのは、時間、練習環境、選手の資質・能力、予算… こんな要素ではないでしょうか。これらの要素が過不足なく揃うことはありません。限られた資源の中でどう戦うか、をしっかり考えて戦略を立てていくことが重要です(図1)。
強化ポイントを絞って成果を挙げた経験
私の失敗談をお話ししますと、10年ほど前まではディフェンス重視でディフェンスを中心に鍛えていました。オフェンスはナンバープレーの多彩さ、相手をびっくりさせるような切り口の多さで勝負しようとしていました。けれども実際の試合では相手からプレッシャーをかけまくられ、なかなかセットプレーを出すところまでいきません。ミスをしてターンオーバー、あるいはシュートミスからファストブレークされて失点の連続。
こうなると、せっかく練習してきたディフェンスを繰り出すこともできません。なぜなら相手がファストブレークでばかり得点するので、プレッシャーをかける機会がないのです。またフロントコートへうまくボールを運べないので、セットオフェンスもできません。こうした現状を打破する最優先事項は何か? と考えたとき、プレッシャーリリースを強化する戦略に行きつきました。
プレッシャーリリースを徹底強化した結果、大学2部リーグの初年度、前半からダブルスコアで負けていたチームが、翌シーズンには入れ替え戦に進出することができました。戦略を明確化することにより成果を挙げることができた私自身の体験です。戦略を成功に導くキーポイントは、原則の理解とワクワク感であると考えています。
「効率よく期待値の高いシュート」を打つために
ここで改めて、オフェンスの目的とは何か? と考えてみましょう。得点を取ること。得点を取るためには、より効率よく期待値の高いシュートを打つことです。そのために何をしたらよいか? どんな問いを解けばよいか? このような思考回路で練習内容を考えていけば、成果につながっていくと思います(図2)。
私自身、ミニバスから代表チームまですべてのカテゴリーを指導してきた中で、選手側の迷い(曖昧さ)として多いと感じたのが、「いつ攻めたらよいのかわからない」「ボールを持っていないとき、何をしたらよいのかわからない」の2点です。どの選手にとっても、どのコーチにとっても向き合うべき課題であるにもかかわらず、多くの人が曖昧にしてきた課題と言えるのではないでしょうか。曖昧にしているからこそ、コーチ自身のストレスの原因にもなります。
確実に起こるディフェンスのズレを突く
オフェンスで確実なものは何でしょうか? 確実に起こることは、ディフェンスのズレです。このズレをしっかり突いて攻撃することができるか。これがとても重要です。ディフェンスのズレを確実に攻めることで、効率よく期待値の高いシュートにつながるのではないか。そう考えています(図3)。
ここでよくあるパターンが「私、攻めていいの?」と選手自身が思ってしまうこと。自分が攻めるべきかをいちいち考えながらプレーしていたとしたら、ディフェンスに一瞬生じたほころびを、一気に突いて攻めることは難しいです。ですからコーチは、「効率よく期待値の高いシュートを打てるチャンスが来たら即打つ」ことを教えるべきであり、常にシュートチャンスを探している状態をつくり、チャンスが来たらすぐ打つ。ディフェンスのズレは必ず起こるので、そのズレを見逃さずに攻めることを大状況として理解させること。これはオフェンスを考える上での一つのキーポイントとなります。
味方からパスを要求されたら?
次は、私の教え子2人がプロ選手になった時に生じた課題。よくある課題なので共有したいと思います。先ほどの「効率よく期待値の高いシュートを打てるチャンスが来たら即打つ」を実践する中で、チームメイトから「パスして!」と要求されると、困ってしまいます。自分が自己中心的にプレーしているような気がして、プレーの判断が狂ってしまう。自分がシュートを打つべきか、それとも味方にパスすべきか。ここの選択を、チームメイトとの関係性の中で実行しようとすると、とても難しいです。判断基準は、より効率よく期待値の高いシュートはどちらか? であるべきです。この判断基準をブレずに持っておくことが重要です(図4)。
ボールマン以外はサポートに回る
ディフェンスのズレを突く攻撃をボールマンがした時に、他の選手は何をすればよいか。バスケット界では、よく「合わせる」という表現が用いられます。「合わせる」をさらに具体的な行動目標として認識するために、サポートする、と言えば良いと思います。ここでサポートする対象はボールマンです。ボールマンが攻めている時に、自分のディフェンダーがヘルプに行きにくいポジションをとる。もし相手がヘルプした場合は、その代償を払わせる。自分のディフェンダーがヘルプに行ったタイミングで自分にパスが回ってきたら、その瞬間にディフェンスのズレが生じますから、そこを起点に再度攻めていく(図5)。このような展開を理解し、予測しておくことが大切です。
ボールマンの動き─有利な状況ですべきこと
さらに具体的に考えてみましょう。ボールマンがやるべき最優先事項は、期待値の高いシュートを目指すことです。ただし、これは自チームが有利な状態の時。状況が不利な時に無理して攻める必要はありません。有利な状況を判断するポイントは、ディフェンスが遅れている状態、またはディフェンスが横から来ている状態かどうか。これが起こった時に攻める、と決めておけば、プレーヤーに起こりがちな「いつ攻めたらいいかわからない」が解消します。また、スピードやサイズにおいてミスマッチが起こっている時も攻めるタイミングです。これらが大原則であり、選手たちが共通理解として認識している必要があります。攻めるべき状況とそうでない状況を線引きすべきであり、相手と拮抗した状況であってもとにかく攻めろ、と言うと選手は混乱してしまいます。有利な状況を見逃さずに、その時が来たら攻めよう、ということです。
有利な状況で自分がボールを持っているとします。ここでシュートを打つかどうかの判断基準は、自分とゴールとの間にディフェンダーの胸があるかどうか、です。胸がなければシュートを打つ。もしディフェンダーが立ちはだかっていて前が開いていない場合は、シューティングポケット(利き腕の肩の前)にボールを構えます。この位置でボールを保持することで、ディフェンダーは手を挙げなければならなくなります。これによってディフェンダーの重心が上がって間合いが詰まり、抜きやすくなります。シューティングポケットにボールを構えた時、ディフェンダーの手が目の前になければシュートを打ちます。もし手があったら、シュートをストップして相手を抜きます。この動作を「ショットフェイク」とは言わずに「ストップショット」あるいは「シュートキャンセル」と表現すれば、選手も趣旨を理解しやすいのではないでしょうか。
有利でない時
次に、相手に対して有利でない状況の時はどうするか、について考えていきましょう。先ほどお話ししたとおり、その場合は無理して攻める必要はありません。パスしたり、ピックアンドロールやスクリーンなどのグループ戦術を選択すべきです。この状況での心がけは、安全に、息を合わせて、です。
このようにプレーの原則をインプットすることで、ボールを持った瞬間に何をしたらよいかわからない、という選手はいなくなるのではないかと思います。
ボールマン以外のアクションの原則
ボールマン以外のプレーヤーがやるべきこと。大きなポイントは先ほど触れたように、「ボールマンをサポートすること」。サポートするとは具体的にどういうことか。「ボールマンに対して、ディフェンダーがヘルプに行きにくいポジションをとる」ことです。しかしこれも、状況が有利な時とそうでない時で、やるべきことが変わります。
有利な状況とは、ボールマンと相手ディフェンダーにミスマッチが起こっていて、ボールマンが仕掛けようとしている時。この時、オフボールのプレーヤーはダブルギャップをとります。ダブルギャップとは、パス2つ分の距離、だいたい8mです。これによって、自分のディフェンダーがボールマンに近づきにくい状況をつくります。そのように距離をとりながら、オフェンスリバウンドの準備をします。
不利な状況の時はどうするか。不利な状況とは、ボールマンが1対1を仕掛けられない時、またはドリブルをストップしてしまった時です。このような状況では、素早くボールをつなぐ、あるいはグループ戦術を選択します。この場合のボールマンとの距離はシングルギャップの4mです。この距離にいることで、次にグループ戦術に移行する際、やりやすくなります。もしダブルギャップにいるとボールマンとの距離が遠くなってスクリーンをかけたりすることが難しくなります。不利な状況になったら一度ボールマンに寄ってから次のアクションに移行する考え方が効果的です。この場合、ケースバイケースで選択すべきグループ戦術を決めておけば、コート上の5人全員が同じページを見ながらプレーを継続できます(図6)。
>>>恩塚 亨 これからのコーチングで大切なこと その1 を読む
>>>恩塚 亨 これからのコーチングで大切なこと その2 を読む
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