【連載】プレーヤーズセンタード・コーチングのすすめ〈5〉

公開:2022/02/11

更新:2022/02/08

小谷 究(流通経済大学准教授、同大学バスケットボール部ヘッドコーチ)

今日の指導者に求められるコア資質の一つと言われる「プレーヤーズセンタードコーチング」とは? 日本バスケットボール協会の指導者養成プログラムにも参画している小谷究氏に、このプレーヤーズセンタードコーチングによる短期連載です。


対自己の知識

前回の記事において、国際コーチングエクセレンス評議会が掲げるコーチが学ぶべき知識のうち「専門的知識」、「対他者の知識」について紹介しました。今回は「対自己の知識」について紹介します。

まず、「対自己の知識」のなかにある自己認識についてです。一連の記事において、今日のバスケットボールコーチには、プレーヤーの学びに対する主体的な取り組みを支援するコーチングが求められていることについて繰り返し述べてきました。読者の皆さんは、コーチ像や目指すべきコーチングのゴールについて、一定の理解ができていることでしょう。しかし、そのコーチ像やコーチングのゴールに向かって、コーチが学ぼうとする際に、自己認識ができていなければ、効率的および効果的に学習することが難しくなります。例えば、コーチがバスケットボールのスキルや戦術などに関する知識がまだまだ足りていないと思っていても、相対的にバスケットボールのスキルや戦術などに関する知識よりも、スポーツ全般に共通するトレーニング科学やスポーツ医・科学に関する知識、コミュニケーションスキルに劣っていれば、学習する優先順位や方法が異なってきます。まず、己のコーチングについて評価し、自己認識することにより、コーチ像や目指すべきコーチングのゴールへの効果的なアプローチが見出せるのです。

さて、自己認識の方法は、自分自身で主観的に評価する他にも他者からの客観的な評価を得る方法もあります。アシスタントコーチなど、他のコーチングスタッフに評価してもらう方法も有効です。もし、コーチと他のコーチングスタッフとの関係が良好でなければ、ここでの評価は偏りのあるものになるでしょう。他者からの客観的な評価では、率直な意見を引き出したいものです。したがって、自己認識にあたっても「対他者の知識」が重要になります。もし、指導現場にコーチ以外のコーチングスタッフがいない場合は、他チームのコーチ仲間からの評価を得ることが考えられます。また、プレーヤーとの関係が良好であれば、プレーヤーから評価してもらう方法も有効でしょう。

つぎに、「対自己の知識」のなかにある省察についてです。下図は国際コーチングエクセレンス評議会の「International Sport Coaching Framework」から作図したものになります。図では、コーチの学びについて2つの円を用いて表現しています。左側の円は、大学での授業やJBAコーチ養成講習会などでの学びを表現しています。左側の円には、最近、オンラインで頻繁に開催されているセミナーやクリニックなどでの学びも含まれます。

一方、右側の円は指導現場での学びを表現しています。コーチが指導現場でコーチングを実施し、そのコーチングについて振り返るなかで得られる学びになります。注目すべきは、左側の円よりも右側の円のほうが大きいことです。つまり、コーチがセミナーやクリニックなどに参加して学ぶことも重要ですが、そうした学びよりも指導現場での学びのほうが大きいということになります。

この指導現場での学びをより大きなものにする一手段が省察になります。コーチは自身のコーチングについて指導しながら振り返ることもあるでしょうし、練習や試合直後に振り返ることもあるでしょう。また、帰宅途中の電車や車のなか、はたまた、帰宅後の湯船のなか、就寝前にベッドのなかで、その日の練習やゲームでのコーチングについて振り返ることもあるでしょう。さらに、次の練習直前に、再度、振り返りをすることもできます。重要なのは意図的に振り返りをすることです。意図的な振り返りでは、何についてどのように振り返るのかが明確になっていなければなりません。ここでは、コーチ像や目指すべきコーチングのゴールが有効になります。コーチ像や目指すべきコーチングのゴールが明確になっていれば、何についてどのように振り返ればよいかが自ずと導き出されるでしょう。

さて、コーチ像や目指すべきコーチングのゴールについては、プレーヤーズセンタードコーチングが求められているため、それをゴールに位置付けることができます。しかし、日本スポーツ協会や日本バスケットボール協会で求められているという理由で、プレーヤーズセンタードコーチングを自身の目指すべきコーチ像や目指すべきコーチングのゴールに位置づけたとしても、コーチ自身のモチベーションにつながらず、行動に結びつけることが難しくなるでしょう。

ここで「専門的知識」、「対他者の知識」、「対自己の知識」の3つ中心に位置づけられている「活動の指針となる価値観、理念および目標」が重要になります。自身の価値観や理念および目標とプレーヤーズセンタードコーチングを紐づける作業が必要になります。自身の価値観や理念及び目標とプレーヤーズセンタードコーチングを紐づけることができれば、モチベーションを高く保ち、プレーヤーズセンタードコーチングの実現に向けて行動することができるでしょう。

>>>連載1 「今日のバスケットボールコーチに求められるコーチング」を読む

>>>連載2 「プレーヤーズセンタードとプレーヤーズファースト」を読む

>>>連載3 「バスケットボールのコーチの歴史」を読む

>>>連載4「専門的知識と対他者的知識」を読む

小谷 究(Kotani Kiwamu)

1980年石川県生まれ。流通経済大学スポーツ健康科学部スポーツコミュニケーション学科准教授。流通経済大学バスケットボール部ヘッドコーチ。日本バスケットボール学会理事。日本バスケットボール協会指導者養成部会部会員。日本バスケットボール殿堂『Japan Basketball Hall of Fame 』事務局。日本体育大学大学院博士後期課程を経て博士(体育科学)。

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