【連載】プレーヤーズセンタード・コーチングのすすめ〈6〉

公開:2022/02/25

更新:2022/04/19

小谷 究(流通経済大学准教授、同大学バスケットボール部ヘッドコーチ)

今日の指導者に求められるコア資質の一つと言われる「プレーヤーズセンタードコーチング」とは? 日本バスケットボール協会の指導者養成プログラムにも参画している小谷究氏に、このプレーヤーズセンタードコーチングによる短期連載。今回が最終回です。


プレーヤーの主体的な学びを促す4つのアプローチ

前回のまで記事では、プレーヤーズセンタードコーチングを実現するためにコーチが学ぶべき知識について紹介しました。今回は、指導現場でプレーヤーズセンタードコーチングを実現するためのアプローチを紹介します。

プレーヤーの主体的な学びを確保するための一手段として、「Tell(指示)」、「Sell(提案)」、「Ask(質問)」、「Delegate(委譲)」のアプローチの活用があげられます。

「Tell(指示)」では「ディフェンスプレーヤーがクローズアウトで向かってきているのでドライブしてください」というように、コーチからプレーヤーに指示するアプローチになります。このような「Tell(指示)」のアプローチはティーチングにあたるといった指摘があるかもしれません。しかし、ビジネス界ではコーチングとティーチングを分類して用いるものの、我々のスポーツ現場でのコーチングでは、もちろん、伝えることもしますし、引き出すこともします。つまり、スポーツコーチングではコーチングとティーチングを分けるようなことはしません。したがって、「Tell(指示)」もコーチングのアプローチのひとつになります。

「Sell(提案)」では、「ドライブしてみるのもいいかもしれないね」のように、コーチからプレーヤーに提案します。その提案を実行するかしないかの選択権はプレーヤーにあります。プレーヤーがコーチの提案を採用した場合には、プレーヤー自身で選択しているため「やってみよう」というモチベーションがついてくることが期待されます。また、「ゾーンディフェンスとしては、2-3ゾーンと3-2ゾーンの2つを練習してきたけど、どっちをやってみたい?」などのように質問の形を使った提案も考えられます。

「Ask(質問)」では、「今のプレーがイージーショットに繋がったのはなぜだろうね?」というように質問をするアプローチなります。質問することにより、プレーヤー自身の気づきを促すための枠組みを示したり、コーチがプレーヤーのことをより理解したりすることができます。

「Delegate(委譲)」では、「この練習は自分たちで考えて進行してみて」というようにプレーヤーに委譲します。「Delegate(委譲)」のアプローチによりプレーヤー自身で観察し、分析し、判断し、実行するといった主体的な時間を確保することを図ります。バスケットボールはチームスポーツであることから、「Delegate(委譲)」のアプローチにより、プレーヤー同士で教え合うといったことも期待されます。

「Delegate(委譲)」のアプローチでの注意点は放任にならないことです。ここで、コーチの観察が重要になります。プレーヤーたちの状況によっては、「Delegate(委譲)」のアプローチから「Tell(指示)」、「Sell(提案)」、「Ask(質問)」のアプローチに切り替えることが求められます。

以上の4つのアプローチをコンテクストに応じて使い分けることにより、プレーヤーの主体的な学びを確保することを図ります。コンテクストによっては、一つのアプローチだけでよい場面もあるかと思います。ただし、コーチが一つのアプローチだけしか使えないのは避けたほうが無難です。

4つのアプローチだけでなく、もっと多くのアプローチがあるかもしれませんが、いずれにしても、プレーヤーの主体的な学びを確保するために、コーチには複数のアプローチを使えるようになり、コンテクストに応じてアプローチを選択できるようになることが求められます。

さて、ここまで連載を読んでいただき感謝申し上げます。これまでの記事で述べてきたことは、現時点でいわれている事柄であり、今後、間違いなく変化していくでしょう。また、記事の内容は一つの提案であり、絶対解ではないということをご理解ください。各コーチによって考え方や捉え方が異なって当然であり、それぞれの納得解を探して求めていくことが、コーチとして学び続けることであるといえるでしょう。

読者の皆さんは、この記事を読まれている時点で、学び続けているコーチ仲間です。今後は、より質の高いコーチとしての学びを一緒に考えていきましょう。

>>>連載1 「今日のバスケットボールコーチに求められるコーチング」を読む

>>>連載2 「プレーヤーズセンタードとプレーヤーズファースト」を読む

>>>連載3 「バスケットボールのコーチの歴史」を読む

>>>連載4「専門的知識と対他者的知識」を読む

>>>連載5「対自己の知識」を読む

小谷 究(Kotani Kiwamu)

1980年石川県生まれ。流通経済大学スポーツ健康科学部スポーツコミュニケーション学科准教授。流通経済大学バスケットボール部ヘッドコーチ。日本バスケットボール学会理事。日本バスケットボール協会指導者養成部会部会員。日本バスケットボール殿堂『Japan Basketball Hall of Fame 』事務局。日本体育大学大学院博士後期課程を経て博士(体育科学)。

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