米国大学チームでは、どのようにデータ分析が行われているか 

公開:2020/08/14

更新:2021/02/18

「目指すべき姿」をイメージさせる

インディアナ大学女子チームで、映像データをどのように活用していたか、その一端をお話しします。NCAAディビジョンⅠに所属するチームですので、その上(WNBAなど)を目指すプレーヤーもたくさんいました。プレシーズンの期間に、各プレーヤーと同じポジションのプロ選手、あるいは特徴の似たプロ選手たちがどのようなプレーをしているか、それらをビデオクリップにまとめて、プレーヤー各人に提供していました。「目指すべき姿」をイメージさせ、練習内容をコーチと一緒に考える材料にするということです。これを見ていて私が感じたのは、米国では個々の「良い部分」を徹底的に伸ばすことにフォーカスし、ある分野で誰にも負けない実力を養う、との思想があること。ここは、日本とは随分考え方が違うなあと思いました。

個別ミーティングのための資料映像づくり

シーズンが始まり、試合が始まるまでの練習期になると、ビデオコーディネーターはひたすら練習のビデオを撮影し、練習後に個別に行われるミーティングの資料映像を作成します。アシスタントコーチは複数名いますので、コーチAはガード、コーチBはフォワード、コーチCはビッグマンといった担当が決まっています。彼らがミーティング時に即利用できるように、撮影しながら、リアルタイムでSportscodeを用いてプレー別のコーディング(分類作業)をしていきます。

ライブ撮影+コーディング

試合期になると、相手チームのスカウティング、自チームのプレー分析とフィードバック。これが映像分析班の主要業務となります。練習期と同様に、ライブで撮影しながらプレー別のコーディング作業を行います。その切り分けられた映像は、ハーフタイムでのフィードバックに利用できます。例えば、「相手のこれだけは阻止しなければならない」といったプレーを、映像を見ながらコーチとプレーヤーが共有し、後半の戦い方に活かしていきます。

マネージャーやプレーヤーをうまく巻き込んで

ここまでが、私が米国で経験したデータ分析、映像分析の概要です。日本の、特にアマチュアレベルのチームでは環境面(施設、スタッフ)が大きく異なるため、これらを部分的にせよ取り入れると言っても、なかなか難しいと思います。

私が現在考えているのは、生徒(学生)さんを積極活用すればよいのではないか、と。私自身、中学高校(東京都・京北)ではバスケットボール部のマネージャーを務め、大学(明治大学)では学生コーチをやりました。

日本でもプロができたことにより、将来バスケットボールコーチを目指す人、あるいはスタッフになりたい、という人が増えているのではないかと思います。そういう子たちをうまく巻き込んで分業制でデータ分析・映像分析に取り組めば、かなりのことができます。将来バスケットボールチームのスタッフになりたいという子がいれば、PC作業など実際の体験を積むまたとない機会にもなります。 ヘッドコーチ1人では自ずと限界があります。マネージャーや学生コーチがいないチームであれば、プレーヤーを巻き込んでもよいと思います。プレーヤー自身が映像コーディング作業に関わることで、新たな気付きにつながることも多々あるし、プレーヤーとして大成しなかったとしても、コーチングや分析といった分野に新たな興味関心を見出すことができます。

入口と出口にフォーカスする

分析ソフトが日々進化し、膨大な量のデータが参照できるようになってきました。データの種類もますます複雑化し、すべてを消化することができないほどの状況になっています。その中に身を置く一人として今考えているのは、「分析の本質」を見失わないことだと思っています。

その本質の部分で考えていることの一つは、プレーの「入口」と「出口」にフォーカスすること。セットオフェンスを例にすると、試合では、相手がやりたいセットオフェンスを成功させないことが重要です。さまざまな要素から成るセットオフェンスの「入口」となる動きをいかに封じるか。ここにフォーカスしています。

一方の「出口」は、プレーヤー個人によって、あるいはセットによってフィニッシュの種類に一定の傾向が見られます。こうした傾向は、ベーシックなデータを取ることによって、かなり明らかになってきます。入口を封じることができなかったとしても、出口のところでいかに確率の低いシュートを打たせるか。出口を相手の狙い通りにさせないチーム戦術、それを練り上げていくのは、データ分析次第である、と考えています。

図1 映像分析によってできることのイメージ

映像分析でできること そして映像分析とは何なのか? この本質的部分に関して、シンプルに理解するには図1のようなイメージがわかりやすいと思います。左側の図が、1試合を通しで撮影した生ビデオです。種々雑多な情報が入り混じっている状態です。映像分析のフィルターにかけることによって、例えば色分けしたデータに置き換わります(右上の図)。別のフィルターをかけると、形ごとに分かれます(右下の図)。分析ソフトのこのような機能を活かしつつ、チームやコーチの考え方に合わせて、いろいろな分類方法・分析方法を用いていくことが大切だと思います。


間宮 誠 Makoto Mamiya

京北中学・高校でマネージャーを務める。明治大学進学後、学生コーチに転身。早稲田大学大学院でバスケットボールのコーチングを学び、1年間休学してインディアナ大学に留学。帰国後は3×3代表チームのテクニカルアシスタントとしてチームに関わり、現在に至る。

〈取材後記〉 インディアナ大学では統計学専攻の学生が分析スタッフとして関わっている、という一面だけを見ても、分析に対する本気度が伝わってきます。その組織的な取り組みは、さすがNCAAディビジョンⅠのチームです。間宮さんは現在25歳ですが、分析やコーチングに関わったキャリアはすでに10年以上。その経験が随所に浮き出るインタビューでした。「中学や高校ではマネージャーや学生コーチをうまく巻き込んで」という提案は、とても現実的だと思います。間宮さんと同じような経験を積んだ若いスタッフが次々と活躍することで、日本のバスケットボールはレベルアップの加速度を上げていくことができるのではないでしょうか(宮村)。


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