世界基準の育成環境を目指して~Club Peace of Mind の取り組み~

公開:2021/01/08

更新:2021/03/25

「勝利に最適化した勝利」は目指さない

―育成年代の指導では「勝利」と「育成」のバランスで悩んでいる指導者も多くいらっしゃるかと思います。CPMでは、「勝利」と「育成」のバランスをどのように考えているのでしょうか?

鈴:育成がどの方向に向かっているかが大事で、育成は「勝利の方向」に向かうはずだと思うんです。育成が成功したら勝利から遠ざかったっていうのはおかしな話ですよね。バスケットをしていて、バスケットがうまくなったんだから、勝利に近づくはず。ですから、育成に100%振り切ることが勝つことにも繋がっていると思っています。ただ、勝つにしても、勝ち方が「育成的に勝っている」か「勝利に最適化した勝利」かの違いがあって、我々は「勝利に最適化して勝利」は目指さないということですね。勝つことを目的にせず、育成の延長線上に勝利がある。しかも、我々が目指している育成は、指導者が選手を育成するというよりも、選手が自らを成長させていく育成なので、ワクワクするチャレンジだなと思ってます。

「自ら課題を解決する文化」を作る

―クラブチームの選手達にはどのようなことを求めているのでしょうか?

鈴:メンバーはトライアウトで選抜しています。トライアウトでは、チームの理念や目的をまず説明します。そこに賛同しているかどうか。また、うちは「やらされる」チームではないので、自分自身でベストを尽くせること。その点を重視して選手を選んでいます。スクールでは要求しないこともクラブでは要求していて、無理にやらせるのではなく、「本当にそれが君のベストなの」ということを常に問いかけながら指導をしています。

―様々なアプリも活用して、選手の課題解決をサポートされているようですが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

鈴:「課題を与えるコーチング」をテーマにしていて、指導者が解決するのではなく、選手自身が課題解決することを求めています。その中で、SPLYZATEAMS(SPLYZA社)という映像分析アプリ(データ分析・記事参照)を使って、自分たちで試合の分析をさせています。ゲームは課題を自ら発見する機会になるので、選手自身がアプリを使って、自分の課題もチームの課題も見つけて、それを解決するという形で取り組んでいます。
また、ONETAPSPORTS(ユーフォリア社)というコンディショニング管理アプリで、食事の量や健康状態、疲労度のチェックをしています。自分がベストを尽くすっていうのは、自分の思っている範囲で完結してしまいがちなので、その基準を高めて行くために食事量や疲労度や体調を見える化し、生活の部分でもある程度要求をしているという感じです。食事の質や意識が、世界のアスリートに比べて日本人は低いよねっていうことをヨーロッパのコーチに言われたことがあって、育成年代からそういったところにも取り組みたいといなと。まだまだ使いこなせていない部分もありますけど、色々試しながら食事や生活の部分に対する意識も改善できればとは思います。
言葉で「ああしよう、こうしよう」というのは簡単だけど、文化としてチームに根付かせていくためには、仕組み化してスタンダードを高めて行くというということが重要だと感じています。

↑練習中に映像を見せて課題解決のヒントやイメージを提供する

選手の反応に常にアンテナを張る

―クラブチームを指導する中で、一番大切にしていることは何でしょうか

鈴:現状U15クラスまでなので、彼らが上の年代で活躍できるよう、準備にベストを尽くすということを意識しています。ベンチワークで勝ったとか、指導者が色々アドバイスしてうまくなった、ではだめで。選手自身が戦略的思考と自分の強みを知って、高校1年生から活躍できる準備をしておくことが、この期間預かるというところの価値かなと思うので。
試合でも、年代が上がるにつれて指導者が話す言葉数は少なっていくのが理想で、タイムアウトの時には、指導者よりも先に、選手達が自分たちで話したりしています。
それから、指導者としては、個性や性質を見極めることが重要だと感じています。例えば、もともと自分で考えられる選手には、ガンガン教えても自分で考えてやれると思うんです。ただ、その教え方をした時に、もし選手が言われたことだけやって、全然考えなくなってしまっている時に、それに気づけないとだめですよね。常に選手にアンテナを張って、一番いい方法を探っている感じです。CPMでは、選手のことを把握するために、1チーム12人に制限していて、入った選手を全員育てる、という思いでやっています。チームで一番競技力が低い選手がどれだけうまくなったか、何ができるようになったか、その伸び率を一つの指標にしていますね。「ベストを尽くす」という理念に対して、努力して「なりうる最高の自分」に近づいていければ成功だと考えて指導していますし、どこまでチームとして指導者としてそこに影響力を発揮できるかを考えています。

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