恩塚亨監督インタビュー「ゼロから道を切り開いてきた開拓者」

公開:2020/07/06

更新:2021/02/22

「自腹だったら行っていいですか?」と協会に頼み込んで、自腹でシンガポールに行きました

同時期、女子日本代表にも関わられていましたが、その経緯は?

創部した頃、『日の丸を着ける仕事がしたい』と思ったのですが、『じゃあ今の自分に何ができるか?』と考えたとき、こんな実績のない自分がコーチとして関われるわけがない。それでいろいろ考える中、“ビデオコーディネーター”という仕事があると知りました。そこで自分でMacを買い、動画編集ソフトを入れてひたすら練習して、JBA(日本バスケットボール協会)に提案したんです。でも『いいですね』とは言ってくれても、『もう予算が決まっているから(大会に)連れていけません』と断られました。そのとき『じゃあ自腹だったら行ってもいいですか?』と頼み込んで、自腹でシンガポールに行って。それが、2006年12月のヤングウーメン(FIBAアジアヤングウーメン選手権大会)でした。当時の選手やコーチからしたら、いきなり『この人、誰?』状態です(笑)。自腹で来て、ほぼ徹夜でビデオ編集やスカウティングをやっているんですから。たぶん相当な“バスケオタク”だと思われていたでしょうね。でもその翌年の北京オリンピック予選(FIBAアジア女子選手権)では交通費を出してもらい、さらにその翌年(08年)、オリンピック世界最終予選では正式にオファーをいただきました。その後4年間(09~12年)女子日本代表のアナリストとして携わり、リオデジャネイロ・オリンピックでテクニカルスタッフ、2017年にはアジアカップでアシスタントコーチを経験させてもらいました。

ビデオコーディネーターやアナリストの経験が、指導に与えた影響は大きいですか

大きいですね。一番は『ゲームから学んでそれを練習に生かす』というやり方を身に付けたこと。4年の任期を終える頃には、試合の映像を見ることにも慣れ、『自分たちの課題を、うまい人たちはこうやって解決しているよ』と選手に映像で見せてイメージさせられるようになりました。ビデオを見ることに“慣れた”というのは、例えば本を読むことと一緒なんです。本を読み慣れていない人って、長く読めなかったり頭に内容が入ってこなかったりするじゃないですか。ビデオを見るのもそれと同じで、最初はよく分からず、長時間見続けるのがすごくキツかった。でも段々と、見て、自分の中に落とし込んでいくことに慣れました。見ながら拾うべきプレーをつかむというか。自分たちがつまずいている課題に似たシチュエーションを探して、トップ選手たちがどう解決しているのか見て学ぶ。そしてそれを選手に見せてイメージさせることが、すごく有効だと気付いたんです。そうして自分たちの課題に優先順位を付けて、重要なものから一個一個潰していけば、必ずうまくなります。だから僕は、うまくいかなかったことは絶対に原因を突き止めるまでビデオを見て探し続ける。“次はこうしたらうまくいく”という改善策が見付かるまで、妥協しないし、曖昧にしません。それが自分の仕事だし、責任ですから。選手には選手の責任があり、僕には僕の責任がある。そこはお互い様です。

コーチとプレーヤーが、“お互い様”だと。

はい。『教えてやっている』『教えてもらっている』という考え方はおかしいですよね。プレーヤーにもコーチを選ぶ権利があるし、コーチにも対価となるものを提供する義務がある。厳しく言う分、それ以上のものを選手に提供しなければと思っています。だから僕、毎日の練習がすごく緊張するんです。『ちゃんとできるかな?』って。どうしたら選手がうまくなれるかずっと考えていますし、練習中の体育館でも、より良い方法がないか探しています。そうして最高のものを提供し続ける責任があると思うので…。結果、選手が『面白い!』という顔で取り組んでくれたときが幸せだし、クリニックで高校生が『おぉ!』と感動してくれたときに自分の生きがいを感じます。

東京医療保健大で練習を見ていて、選手たちが楽しそうに取り組んでいるのが印象的でした。

選手に『面白い!』とか『これができたらこんないいことがある』と思わせるところまでが、コーチの仕事だと思います。もちろん、面白いだけではダメで、厳しさも大切です。苦しいところで指先をもう1㎝伸ばせるかとか、絶対諦めないとか、やり抜くとか。でも、そっちばかりになったらいけないと思うんです。厳しさも面白さも、どっちも大事。ただ鍛えたいわけじゃない。うまくなりたいんです。これは強くなるための練習、これはうまくなるための練習と、両方大事にしています。

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