恩塚亨監督インタビュー「ゼロから道を切り開いてきた開拓者」

公開:2020/07/06

更新:2021/02/22

日本一になった価値を「伝えることに使いたい」

—指導のモットーは?

昔は『絶対諦めない』と掲げていました。だけど諦めないというのは目的ではなく、目的に向かう間の状態だなと。だから今は『絶対に道はある』ということを言い聞かせて、課題と向き合うようにしています。例えば試合でボコボコに負けた後、何度もビデオを見返しながら、どうしたら良くなるのか『絶対に道がある』と思って探すのと、ただ単に『苦しいな』と思いながら探すのとでは、見えるものが違うと思うんです。『絶対にある』と思えば前のめりになるし、そうすると必ず“こうしたら良くなる”という道が見えてくる。できない理由はいくらでもあるけど、できるかどうか考えるより、『どうやったらできるか?』にチャンネルを合わせるんです。

結局「何のために」行き着くんですよね。そこまでしてやりたいことなのか、自分で整理して答えを落とし込んで入れば、あとは覚悟の問題だと思います。

—困難に直面しても、“絶対に道がある”と信じ続けるのは難しくありませんか?

そこまでしてやりたいことなのか、自分で整理して答えを落とし込んでいれば、あとは覚悟の問題だと思います。結局『何のために』に行き着くんですよね。『何のために』があれば、信じ続けられる。うちのチームは今年度、『成り得る最高の自分たちになれるように、みんなで頑張って成長して、日本一になって喜びを分かち合おう』という目標を掲げて努力してきたし、言いづらいことも言い合ってきました。僕個人も、大好きなバスケットについて勉強したものが選手の成長につながって、喜ぶ姿を見るのがうれしいから、そのために勉強する。僕、周りの人からよく『オタク』とか『マニア』って言われるんですけど、僕はそうした自己満足のために専門知識を集めているわけではありません。人に喜んでもらうために、知識を使う。だから、“オタク”と呼ばれる人たちも、自分で『何のために』を持っているのなら、誇りを持って追求した方がいいと思います。選手たちにも『何のために』を常に考えてほしいと言っています。仕事もそうですよね。何の職業でも、結局は仕事の本質って一つしかなくて、それは“人に喜んでもらうこと”。コックだって、作った料理を人に『おいしい』と喜んでもらえて初めてそれが仕事になる。だから『自分の大好きなことで、人に喜ばれることを見付けてほしい』と選手たちには伝えています。『次の休みはいつかな?』とカレンダーを見ながら40年間働き続けるのか、それとも、自分が愛する“何か”で人を喜ばせ、笑顔と報酬をもらって生きるのか…だと。

バスケットの技術だけでなく、そうした“人生観”も選手たちに考えさせているのですね。

バスケットと同時に、自分の人生の地図の描き方を学ぶことを、大学バスケットの価値にしたいんです。自分の人生の座標軸というか、生き方を持っていてほしい。 僕が学生の頃は、そんなの全くなくて『いや、僕なんて…』と思う人間でした。でもいろんな人と出会い、本を読んだり講演を聞いたりして考えていく中で、『何のために』の答えを見付けて。その上で、とにかく『今を全力で頑張ろう』と思ってやってきました。昔、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、歌舞伎役者の坂東玉三郎さんが『遠くを見ない。明日だけを見る』と言っていたんです。この言葉はいいなと思って、僕自身も『今日と明日の練習をどうやったら最高にできるか』を毎日考えてきました。“日本一”とは言っていたものの、そんなに遠くは見ていなかった。今日と明日、どうしたら良くなるか考えて、一瞬一瞬を熱く生きていた先に、インカレの優勝がありました。この一年、チーム全員でそういう熱い気持ちを持って、毎日充実して成長し続けることができました。だからたとえ日本一になれなくとも、僕の人生はいい人生だと思っただろうし、たぶん選手も同じ気持ちだったと思います。

恩塚監督の熱量が、チームに伝染しているように思います。

でも僕自身、人から刺激を受けて今があります。僕が大事にしていることの一つが、『ラーン・フロム・ザ・ベスト(Learn From The Best)』。“一流から学ぶ”ということです。ジョン・ウッデン(元UCLA監督)も、『若者は批判や指導を求めているのではなく、いいモデルを求めている』という言葉を遺していますが、『この人すごいな』と思う人に会って、話を聞いて感化されることは大事だと思います。僕の場合、そのモデルがコーチK(マイク・シャシェフスキー/デューク大監督)でした。コーチKに会いたいと思ってチャレンジして、話をさせてもらって『この人のように一生懸命生きたい』と思えたことは大きかった。それにコーチKから、『“ハードワーク”と“フォローユアハート(自分の心に従え)”だ』と言われてから、自分に才能があるかないかなんて気にしなくなりました。誰でも、自分に才能があるのか、適性があるのかって考えてしまうこともあるじゃないですか。でもそんなことを気にしている暇があるなら、『どうしたらもっといいバスケットができるか?』を考えた方がいいなと。“僕自身の心のままに”というか、自分の感性を信じて一生懸命やるだけだとコーチKから学びました。実際、そういう考え方でやってきて本当に良かったです。周りから『無理だ』と言われても、このチームを作って本当に良かったし、常に『何のために』と『そのためにどうしたらいいか』で心の中がいっぱいなので。自分に才能があるかどうかを気にしても結局変えられないですけど、『この人をどうやったら喜ばせられるか?』『どうやったら上達させられるか?』を考えて、方法をあれこれ変えることはできる。それが成功したら、それはすごく幸せなことです。そうやって一生懸命やっていく中で、バスケットボール界の発展とか、子どもたちを喜ばせることにつながればいいなと思います。

若い指導者の人たちを勇気付けるような、熱いお話でした。

生意気ですが、『必ず道はある』とか『“何のために”が大事だ』とか、自分が若い人たちに伝えられたらいいなと思っています。もし日本一になったことに価値があるとしたら、そうやって伝えることのために使いたい。それは選手たちにも言っていて『日本一になったからこそ、伝えられることがある。夢を持っている人たちに勇気を与えるような、良いモデルになってほしい』と。それも、日本一という価値の使い方かなと思います。

記事提供:『月刊バスケットボール』2018年5月号「指導者Interview チーム作りの達人たち」より

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恩塚 亨 Toru Onzuka

1979年、大分県出身。バスケットボール女子日本代表アシスタントコーチ、東京医療保健大学女子バスケットボール部ヘッドコーチ、東京医療保健大学准教授。2006年、東京医療保健大に女子バスケットボール部を創設し、並行してアナリストやテクニカルスタッフとして女子日本代表チームに関わる。その高い分析力と指導力を生かし、2017年、創部12年目にしてリーグ戦&インカレともに初優勝を果たした。

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